皆さんこんにちは、IPO労務支援サポーターの
立部です。
今回は「IPO労務管理で特に重要な論点は」という質問にお答え致します。
IPO労務の重要な論点
取引所に上場の申請を行う際は、新規上場申請のための有価証券報告書を作成する必要があります。
そして有価証券報告書の「Ⅱの部」の中には、従業員の状況についての記載項目があります、
そして、従業員の状況に関する内容の一部には以下の項目の記載が必要となります。
●勤怠の管理方法及び未申告の時間外労働
(いわゆるサービス残業)の発生防止
●時間外及び休日労働に係る労使協定の内容
●みなし労働時間制
●平均時間外労働時間の推移
●36 協定違反の状況
●長時間労働の防止
●賃金未払いの発生状況
●管理監督者
上記の論点は、労務管理の非常に重要な論点となっております。よって、
弊所においてはこれらの論点を大きく4つに分けて
Ⅰ.勤怠管理状況の整備
Ⅱ.36協定の遵守および長時間労働の防止
Ⅲ.賃金未払の防止
Ⅳ.管理監督者制度の適正化
として、IPOにおける労務管理の4大論点と呼んでおります。
ではそれぞれの4大論点について、ポイントを簡単にご説明致します。
※詳細については、後日に各項目ごとに分けて解説致します。
Ⅰ.勤怠管理状況の整備
勤怠管理状況の整備については、さらに大きく4つの論点があります。
①労働時間の記録
タイムカードや勤怠システムなどにより客観的な方法で労働時間を記録をしていることや
その時間の記録の単位が1分単位であるかという点になります。また、例えば
10分まるめであったり、残業許可制の導入で適正な許可制が運用されていないなどで
結果的に記録している労働時間から一部の時間の切り捨てが発生していないかなども
この労働時間の記録に含まれます。
②管理職等による承認
労働時間の記録について、本人からの記録だけではなく、管理職も内容を確認し、
承認を行っているかという点です。
③人事担当部門による管理
上記①、②によって記録されている労働時間について、人事担当部門が途中で状況のモニタリングを
行い、36協定違反の防止や長時間労働の防止に繋げているかという点です。
④未申告の時間外労働の発生を防止する仕組み
上記①~③の対策を講じていたとしても、例えば勤怠記録をつけずに労働しているような状況が
あったとすると、その勤怠記録は実際の労働時間とは違うため正しいものではありません。そしてそれは
36協定違反や賃金未払などのいわゆるサービス残業に繋がります。
よってそのような勤怠記録のない労働時間が発生しないような取り組みを行い、
未申告の時間外労働の発生を防止しているかという点です。
(いわゆるログ管理の論点になります)
Ⅱ.36協定の遵守および長時間労働の防止
36協定については、書面の作成→労使間で締結作業→労働基準監督署の届出をもって、
初めて36協定で定めた範囲内で時間外労働や休日労働を行うことができます。
また、36協定で定めた時間外労働時間数や休日労働の日数の範囲を超えて労働させると、
即法令違反となることから、36協定の遵守状況については審査上重要な論点となります。
また36協定の論点は、時間外労働の時間数や休日労働の日数が36協定で定めている
範囲内に収まっているかだけでなく、例えば以下の事項について、問題のない運用に
なっているかも重要なポイントとなります。
●36協定の有効性
例えば労働者代表が正しく選任されているか。協定の起算日までに労働基準監督署に
届出ているかなどです。
●特別条項の発動回数
全ての従業員について、特別条項の適用回数が年6回までの範囲に収まっているか
(年7回以上の適用になっていないか)という点です。
●特別条項の発動手続き
36協定で定めた方法にて「事前に」発動手続きを行っているという点です。
●特別条項発動時の健康および福祉に関する措置
36協定で定めた措置を正しく講じているかという点です。
Ⅲ.賃金未払の防止
IPOを目指す会社の場合、会社側が意図して賃金未払を発生させているということはほぼないと思います。
しかしながら特に割増賃金については、法令により計算ルールが定められており、またその計算ルールが
複雑であることから、会社が意図していない賃金未払が発生していることがよくあります。よって、
例えば以下に掲げるような状況になっていないかについて確認を行い、もし当てはまる場合は改善が
必要となります。
●割増賃金単価に算入すべき手当が不算入
●1時間あたりの割増賃金単価を計算
するための分母時間数の誤り
●割増率の相違
●労働時間の切り捨て
●深夜手当の不支給(特に管理監督者や
裁量労働制が適用されている労働者)
●固定残業手当制度を導入している企業は、
その手当を超過した分の残業手当の不支給
●振替休日の未消化やストック
●法令の拡大解釈(例えば管理監督者の範囲の
拡大や変形労働時間制の法的要件の不備)
●計算業務の事務ミス
もし上記の論点に当てはまる場合は、まずは未来に向かって賃金未払が発生しないように改善を
行うと同時に、過去の賃金未払となっている分については別途計算し、従業員への支払が必要となります。
Ⅳ.管理監督者の適正化
管理監督者については、法令で明確な基準が定められておりません、よって、透明性の高い
制度設計にすることにより、管理監督者性を疑われる要素をなるべく排除することが
必要となります。例えば以下の点について注意が必要です。
●地位、権限
決裁権があるか。
部下の採用や人事評価・異動・勤怠管理について一定の権限を有しているか。
経営に関わる会議への参加や会社経営に関与できているかなどです。
●処遇
一般の従業員にくらべ、月収や年収が高い状態であるか。
(賞与や残業手当なども含めた)部下の年収と比べて逆転現象が起きていないか。
管理監督者の実際の労働時間を基に計算された1時間あたりの賃金が一般従業員の
1時間あたりの賃金と比べて高い状態であるかなどです。
●労働時間の裁量性
遅刻や早退について賃金の控除をしていないか。
管理監督者の労働時間の大部分が一般従業員と同じような仕事や作業に従事していないかなどです。
●組織バランス
部門の中に複数の管理監督者が存在し、かつ承認のラインが課長→次長→部長のような、
複数の階層に管理監督者が存在している場合の課長の管理監督者性が担保できているか。
部下なしの管理監督者が複数存在していないかなどです。
●人員構成
正社員の人数に対しての管理監督者の割合が常識的な範囲になっているかなどです。
まとめ
IPOに関し、労務管理の整備は多岐にわたりますが、今回ご説明をした4大論点については
非常に重要な項目です。またそれと同時に、これらの論点を改善するためには時間がかかります。
さらに事案によっては従業員を巻き込んで全社として取り組む必要がある論点となります。
よってIPOを目指した労務管理の改善をスムーズに進めていくためには、できる限り早い段階から
この4大論点について着手し、改善を行うことが必要となります。
最後までお読み頂きありがとうございました。